4月27日後半部分
第25回 行政書士公法研究会 後半
『震災と借地借家法』
〜罹災都市借地借家臨時処理法を知る。〜
の講義案です。
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是非
行政書士 山賀 良彦まで、ご連絡ください。
第25回 行政書士公法研究会 後半
『震災と借地借家法』
〜罹災都市借地借家臨時処理法を知る。〜
報告者 行政書士 山賀 良彦(北支部)
平成23年4月27日
一、罹災都市借地借家臨時処理法について
0.「罹災」と「被災」の意味
1.罹災都市借地借家臨時処理法とは
(1)「罹災都市の借地人・借家人を保護し、
罹災都市の復興を促進するため」の法律」で、
「借家もしくは借地上建物が「滅失」した場合の
法律関係について定めた法律」
<法学セミナー486p32>
(2)「被災住民が元居住していた町や地域に
戻れる方向での借地借家の権利関係の調整を
狙いとしたものであり、
その中で、借地人・借家人の権利保護を図ろ
うということが主眼」<山内p3>
→昭和21年制定。当初は戦災対策。
後に、火災、震災、風水害その他の災害にも準
用される。
2.近時の適用<意見書p2>
1995(平成 7)年 1月17日 阪神・淡路大震災
2004(平成16)年10月23日 新潟県中越地震
3.今回の震災への適用、今後の展開
→読売新聞等のHP あるいは、法務省等の頁をチェック
→当日までの資料
二、沿革(法セミ486p32、法学教室175p46-7、意見書)
1.「罹災都市借地借家臨時処理法」関連法規
1908 建物保護ニ関スル法律(明治42年5月21日法律第40号)
1921 旧借地法(大正10年4月8日法律第49号)
旧借家法(大正10年4月8日法律第50号)
1922 借地借家調停法(大正11年法律第41号)
→1951廃止、民事調停法へ
1923 関東大震災(大正12年9月1日)
1924 借地借家臨時処理法
(大正13年7月22日法律第16号)
1945 戦時緊急措置法
(昭和20年法律第38号。
昭和20年6月22日公布、同23日施行)
→昭和21年4月1日廃止
戦時罹災土地物件令
(勅令第411号昭和20年7月12日公布・施行)
→罹災者の住宅確保と罹災地の借地関係の調整を図る。
<紀要p28>
→昭和21年9月15日廃止
1946 罹災都市借地借家臨時処理法
(昭和21年8月27日法律第13号)
→同年9月15日施行
1947 法律第106号(昭22年9月13日)
→戦災以外の、法律で定める火災、震災、
風水害その他の災害のため滅失した建物
がある場合にも準用。→25条の2の文言追加。
→昭和南海地震(昭和21年12月21日)に適用される
(昭和22年12月10日)。
その後、伊勢湾台風、富山県の火災等にも適用される。
1956 法律第110号(昭和31年5月21日改正)
→適用される災害を「政令」により指定(第25条の2)。
1991 借地借家法(平成3年10月4日法律第90号)
→平成4年8月1日施行
→同年7月31日までで、
旧建物保護法、旧借地法、旧借家法、廃止。
1995 阪神・淡路大震災(平成7年1月17日)
→政令第16号(平成7年2月6日公布・施行)
→同日が各種期間の起算点(第25条の2)
→適用地区(大阪府と兵庫県の33市町村)を指定
2004 新潟中越地震(平成16年10月23日)
政令第160号(平成17年4月15日公布・施行)
→適用地区(長岡市等の7市3町村)を指定
2.適用関係<教室175p46、詳しいp3>
(1)
@個々の借地・借家契約
A罹災都市借地借家臨時処理法
B旧建物保護法 C旧借地法 D旧借家法
E借地借家法
F民法
(2)借地・借家法関係の旧法と新法との適用関係
<詳しいp2,4-5>
@概略
→平成4年8月1日以降に締結された契約=借地借家法
→平成4年7月31日までに締結された契約
=旧借地法、旧借家法、旧建物保護法
A詳細
→借地借家法附則4条
=原則、借地借家法は施行以前の事項にも適用有。
→しかし、特別の定め(借地借家法附則第5条から第14条)
のある場合には、旧法の適用がある。
→結果、重要な部分(存続期間、更新等について)に旧法の
適用があることに(例:借地借家法附則第6条)。
三、罹災都市借地借家臨時処理法について
1.適用の可否の検討(罹災都市借地借家臨時処理法第25条の2)
(1)時 :戦災及び火災、震災、風水害その他の政令の定める災害
(2)場面:上記災害によって建物が「滅失」した場面
(3)範囲:借地借家関係
(4)特徴:
@借地関係
ア)対抗力の存続(第10条)
イ)契約期間の伸長(第11条)
A借家関係
ウ)建物優先賃借権(第14条)
エ)敷地優先賃借権(第2条、第3条)
2.罹災都市借地借家臨時処理法の適用上の問題について
→法は「滅失」の場合に適用される。
(1)滅失有
→個別の契約・民法・借地借家関連法・罹災都市借地借家臨時処理法
(2)滅失無
→個別の契約・民法・借地借家関連法
(3)注意点
罹災都市借地借家臨時処理法17条
3.滅失の判定
(1)滅失の基準(どの程度まで損傷した場合をいうのか?)。
→「建物の物理的な損壊だけではなくて、
経済的な価値の喪失なども含む」。
@「判例上、建物の主要な部分が消失して
賃貸借の趣旨が達成されない程度に達
したかどうかが基準になる」。<法学セミ485p15>
「修復に多額の費用を要するかどうかも判断の要素になる」。
A「建物の物理的形状(倒壊してるか、
建物の駆体部分の損傷があるかなど、
社会経済的に建物としての効用を失ったかどうか
(建ててからの年数、耐用年数、補修の可能性、補修費用、
新築費用・従前賃料との比較、居住の意思などからみて)
が考慮されることになる。」(判例タイムズ879p8)
(2)立場、状況によって判断が変わりうる。
公費による取り壊し補助金が出るから壊したい。
滅失による賃貸借契約の終了=公営住宅の入居要件に
(3)罹災証明書とのズレ
(4)参考判例
最高裁昭和32年12月3日
最高裁昭和42年6月22日
四、借地
0.検討すべき内容
→再築の権利と居住の安心を考える。
:罹災都市借地借家臨時処理法の適用の有無、土地の修繕、
借地権の存続、再築の可否、契約期間・契約更新の有無、対抗力の有無
1.借地上の建物が滅失にいたらなかった場合
(1)修繕の有無(ジュリ1070p153)
@地上権の場合
→土地所有者の修繕義務無
A賃借権の場合
→原則、土地所有者の修繕義務有(民606条)
→しかし、負担しきれない場合には、履行不能として、
賃料減額(民606条)、または、
契約消滅も<ジュリ1070p153>
Bその他
ア)増改築特約の問題<WEBQ22>
→特約自体は有効。ただし、合理的な範囲内で。
一切の増改築を禁じるものは無効。
→原則、承諾を得なくても増改築可。→注:信頼関係の破壊。
イ)賃料減額請求の問題
→借地法12条の適用の可否
2.建物が滅失した場合
(1)借地権存続(旧借地法7条、借地借家法7条)
→期間満了まで利用可能
→地震による滅失=朽廃に当たらず(旧借地法2条)
(2)契約期間
滅失でも借地権は存続=期間満了まで利用できる。
→罹災法11条の適用無=残余期間
←再築に対する異議の有無・再築建物の構造等で期間が変わりうる
(後述(3)B)。
→罹災法11条の適用有=10年/残余期間が10年以上ならば残余期間
→注:再築がないと、法定更新が困難に(後述(3)2)。
(3)再築の意義
@再築について
ア)再築は可能(旧借地法7条、借地借家法7条)。+承諾不要。
イ)Q再築禁止特約があった場合
→旧借地法7条、借地借家法7条
=建物が滅失した場合に残存期間を超えて存続する建
物を建てることを前提とした規定の存在。
→それを否定する特約の効力は無効<Q&Ap5>。
→用途、構造の変更等に関し信頼関係の破壊に注意。
←実際には、賃貸人の承諾を得る必要も。
特に、建て替えのローンに地主の承諾を要するケースも。
A再築と法定更新
ア)再築=法定更新に必要
(旧借地法4条T、6条U、借地借家法5条T、U)
→残余期間が短いときに事実上再築が不可能になり、
契約終了のおそれがある。→罹災法11条の意義大
<法セミ497p43>
イ)再築なきとき
→契約期間満了時において法定更新が困難に
(旧借地法4条T、6条U、借地借家法5条T、U)
→契約期間満了→更新に対する異議有→法定更新が出来なくなる。
ウ)再築に対する異議がある場合
→再築後の契約期間延長のメリットが受けられない。
→以下、Bへ
B再築に対する異議の有無と契約期間、更新について
ア)再築に対する異議有(旧借地法7条、借地借家法7条T・U)
→契約期間延長されない(旧法20年・30年、新法20年にはならない)。
@)契約期間
罹災法11条の適用有→10年に/残余10年より長い=残余期間
罹災法11条の適用無→残余期間に。
A)契約期間満了の更新時(旧借地法4条、6条「正当事由」の有無が問題に)
イ)再築に対する異議無
@)契約期間
罹災法11条の適用無→旧借地法7条(20年・30年に)、新法7条(20年)
<なお、新法では承諾の問題もある。Q&Ap7>
罹災法11条の適用有=再築の異議無+罹災法11条の適用有→Q
Q:この場合の再築について、旧借地法7条の適用の可否
→再築後の契約期間が旧借地法で20年、30年になるか?
それとも、罹災法11条の10年のままか?
→最高裁×/学説〇?
(なお、新法適用のケースなら新法7条の要件にも関わる。)
A)契約期間満了の更新時(旧借地法4条、6条「正当事由」の有無が問題に)
C法律と実際上の問題
→再築のための資金調達の難しさ<法セミ497p43>
→法的には再築に関する承諾は不要。
しかし、実際上は特約等により地主の承諾を得る必要も。
(4)対抗力
@地上権の登記、賃借権の登記、旧建物保護法1条
→滅失したまま=対抗力が失われる。
A対抗するために
ア)掲示による対抗(借地借家法10条T、U)
→事実上不可能な場合も<民商p646>
イ)罹災法第10条(5年間の対抗力)
→5年間、再築不要で対抗できる。=建物収去・建物建築禁止請求可
→取引の安全上の問題も指摘される<法セミ497p43>。
→対抗力の継続には5年以内に再築必要
(5)借地権の譲渡<AQ&A47>
→建物がないと譲渡・転売が不可→放棄するケースも。
(6)終了(罹災法12条)→催告権
(7)その他
使用貸借<民商p652>→個々の契約による。
五、借家
1.建物が滅失しているか否か
(1)滅失について
@三、3.
A滅失の有無による帰結
建物滅失有=契約消滅+罹災法適用有
建物滅失無=契約存続→罹災法適用無
(2)問題点
@滅失に関する主観的な相違→修繕可VS修繕不可
阪神大震災の例
@)多くのケース:家主側=滅失を主張、借家人側=修繕を要求
A)罹災法適用決定後:
借家人側=滅失を主張、家主側=争うケースも。
<法律時報67巻9号p33>
A滅失の認定について
→損傷・毀損の程度→解約申し入れにおける正当事由の有無の判定の要素
→正当事由<近Q&Ap 17>
2.一部滅失、損傷、損壊の場合
(0)検討すべき内容
修繕義務、賃料支払義務、解約、正当事由、立退料。
(1)建物滅失無=契約存続→罹災法適用無
→契約、民法、旧借家法、借地借家法の適用
(2)修繕義務(民法606条)<法セミ485p16>
→損壊の程度によっては修繕義務の認められない場合も<法セミp485p16>
=解約申し入れに正当事由が生じることも。<AQ&A38>
@問題点
ア)修繕特約
→大修繕も賃借人が行うとの特約<近Q&Ap30>。
A:小修繕の限りで有効。
←賃貸人の修繕義務は免れえない<法セミ485p16>。
イ)借家人による修繕(必要費の問題に(民608条))
→家主への通告義務(民法615条)・家主との信頼関係
(3)賃料支払債務
@賃料減額(民法611条T、借地借家法)
→修繕しない場合=賃料減額請求
→建物居住不可=賃料支払義務無(民536条)、
場合により契約解除(民611条U)も。
→判断の困難さ<法セミ485p16>
A問題
ア)電気・ガス等ライフラインのストップと賃料支払義務
→民法536条と借家人の利用の状況の検討
→居住できるのであれば賃料支払義務がある<法セミ485p17>
←反対意見も(詳しい)
イ)避難命令と賃料支払義務
(4)解約申し入れ、立退請求と立退料<法セミ485p17、Q21p21>
→明確に滅失していれば契約消滅。=借地権消滅+立退料不要
→過大な修繕費用が必要=解約の正当事由になることも。立退料不要
→しかし、不明確であれば争いに。→立退料が解約の正当事由の補完要素に。
3.建物滅失有=契約消滅+罹災法適用有
(0)検討すべき内容
借家契約消滅による法的整理と
罹災都市借地借家臨時処理法の適用による法的問題
(1)@賃貸人:目的物を使用・収益させる義務消滅、敷金返還義務発生
→地震による滅失=不可抗力→債務不履行無
注:なお、たとえ欠陥等の賃貸人の債務不履行があっても、
賃貸借契約は消滅。事後は、
損害賠償の問題で考えるべきものと解される。
A賃借人:賃料支払債務消滅、家財搬出義務(原状回復義務)発生
(2)敷金等の取扱い
@滅失=契約終了→原則、敷金の返還請求可
(→滞納があるケースは控除される)
A問題点
ア)不返還特約→無効<近Q&Ap18、法セミ485p14、コピーQ42>
イ)敷引きの可否(特約の効力)<法セミ485p15>
→性格、実態から判断すべきか=賃料の前払的、礼金的
ウ)権利金の返還義務<法セミ485p14>
→性格、実態から判断すべきか=賃料の前払的、礼金的
エ)敷金承継→借家権の相続と敷金の相続
オ)敷金受領と罹災法上の権利の消滅(14条等)
→消滅しない<自由vol.47-2p67>
(3)目的物返還と家財搬出義務<法セミ485p15、近Q&Ap22-3>
→原則、搬出しなければ債務不履行。=賃料相当分の損害
→但し、建物の利用が不可能な実態に沿うか疑問も。
→原状回復の問題も<BQ&A2,3>
4.罹災都市借地借家臨時処理法による特則
(1)立法趣旨その他
@罹災都市の借地人・借家人を保護し、罹災都市の復興を促進するため
<法セミ486p32>
A共通の認識として <ジュリp156>
→立法時
→今日
B共通の問題点として<法セミ497p42>
→時代の変化における妥当性→政策目的
(2)14条
@概要 建物優先賃借権<Q&Ap44、近Q&Ap87>
「滅失建物の借家人が、
滅失後最初にその敷地に建築された建物について、その完成前に
賃借を申し出し、他の者に優先して、
相当な借家条件で借家権を取得できる。」
→条文のチェック<WEBQ68>
A問題点<法セミ486p34>
ア)当事者の立場
@)賃貸人側の事情(事前催告権無、期間制限も無)
←賃借人側は10年後権利主張が可能に<近畿Q&Ap89>
A)賃借人側の事情(建築されなければ何もいえない)
←建物の構造を要求することは出来ない。結局あきらめも。
イ)正当事由の判断として<教室175p48>
ウ)実務上の扱い<法セミ486p34、山内p22>
→罹災法上の権利放棄+解決金受領
エ)マンションの問題
オ)具体的な借家条件→罹災法15条
(3)2条
@概要 敷地優先賃借権(自由vol.47-2p68、Q&Ap45)
「滅失建物の借家人が、政令施行の日から2年以内に、
土地所有者に対して土地の賃借を申し出て、
他の者に優先して、相当な条件で借地権を取得できる。」→条文
<WEBQ50>
→正当事由<教室175p49、近Q&Ap46>
→山野目、判例タイムズ982pより
@、A、B
A問題点
ア)当事者の立場
@)賃貸人:借家権が借地権に変わる点(敷地権者の予期せぬ不利益)
<法セミ486p34>
→借地と借家の価値の違い、社会情勢のちがい。
A)賃借人:高額な権利金を覚悟する点←借地権を取得することから。
→借家人に建築能力・支払能力が必要。
B)相当な借地条件について裁判所による決定(罹災法15条)
<法セミ486p33>
→借地権の設定の際の一時金(権利金)の相場について
※仮に、借地権価格を更地価格の6割とし、借家権価格を借地権価格の
3割とすると
計算式 0.6×(1−0.3)=0.42 →権利金の額の問題。
→そもそも借家が借地になることの問題。
→判断が困難<From95p160>
イ)マンション等について(法セミ486p33)
@)複数の借家人からの申出の優劣(罹災法16条)
A)一人の場合
(4)3条
@概要Q&Ap44-5
「すでにその土地に借地人がいる場合には、滅失建物の借家人が、政令施行の日から
2年以内に、借地人に対して借地権の譲渡を申し出て、他の者に優先して、相当な対
価で借地権を取得できる。」
A2条との違い<近畿Q&A48p44>
→相手方の違い
→賃貸人の承諾(罹災法4条、民法612条)が不要に
六、罹災都市借地借家臨時処理法の適用に対する疑問・反対の表明
(1)意見書p3(2)、(3)、(4)
(2)問題点<自由vol.47bQp68>
(3)法律時報67巻9号p33
(4)民商p643、664注(4)
(5)山内p23-24
七、今後について